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 この国で育った者達は、その森の事をこんな風に歌う。
 
 
 十二の森を訪ねるのなら、番人達にお気を付け。
 彼らの庭を荒らしたならば、決して森から出れはせぬ。
 気まぐれ、偏屈、変わり者。
 時には優しく、あるいは厳しい。
 けれども森が開いたならば、恐ろしくても行ってごらん。
 十二の森を訪ねた者はその優しさを知るだろう。
 十二の森を愛した者はこの国の住人となるだろう。
 美しく不思議な森を見たいなら、さあさあどうぞ、フォルティースへおいで
 
 
 ―― 歌に歌われる、フォルティースと呼ばれるこの国は、大陸の東端に横たわる山脈の麓に古くから存在している。
 周囲を峻険な山々に守られ、さらに国土をぐるりと囲む広大な森がこの国の長い歴史を支える何よりの土台だ。
 ほぼ円を描くような国の中心には、その美しさで名の知れた森に囲まれた湖とそこに浮かぶような形の王都があり、そこから時計の数字のように放射状に離れた国境近くに十二の大きな街がある。
 
 円状に点在する十二の街が作る大きな輪の外側を、さらに大きく囲みこむように存在するのが十二の名を与えられた広い森。
 これらの森は一つながりになっているようにも見えるが、森と森の間には一応の区切りがある。場所によっては国の外に続く大小幾つかの街道も通っている。
 あとは、その森と国境の都市に守られるようにして、広く豊かな土地と小さな村や町が国のあちこちに点在し、農耕や牧畜が盛んに行われている。
 
 フォルティースは、国土の広さから見ると国としての規模はさほど大きくはないが、歴史がある事と、有名な特産物とで、大陸では名が知られている。
 その有名な特産物とは、農耕や牧畜、近年盛んになってきた観光などではない。
 
 古代からの知識を受け継ぎ、新しく生み出す者。
 精霊と語らい世の理を守る者。
 あるいはもっと身近に、薬や呪いで人を癒し、祝福を与え、垣間見た未来から少しだけ導きを与える者。
 国に、人々に、恵みをもたらす古からの英知。
 良き魔法と、それを扱う良き魔法の徒こそが、この国の最大の特産物なのだ。
 
 魔法の徒――すなわち魔女や魔法使い達は、人口に対してはさほど多い比率ではない。
 けれどこの国の人々にとって魔女や魔法使いの助力や彼らが営む店は、それこそ町のパン屋のように日常生活と切り離せない存在だ。
 子供達は当然ながら、純粋な夢として、あるいは出世コースとして魔法の道に憧れを持って育つ。
 空気のように水のように魔法が存在する国、それがこのフォルティースという国なのだ。
 そして、そんなこの国の要は、王都に座す魔法王と、国直属の魔法協会、そして国境を守る十二の森の十二人の番人達。
 当然ながら、その番人ももちろん魔法の徒である。
 十二の森は魔法の森。
 一つ一つ違う月を象徴し、一年中季節の変わらぬそれらの森は、この国である意味一番不思議な場所だった。
 
 フォルティースは森と魔法の国。
 これは美しい魔法の国を囲む、十二の森と、そこに住む十二人の番人の物語――
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