2.休暇の幕開け |
約束の朝、四人は朝一番の乗合馬車に乗れるよう街の中央広場に集合した。 学園都市の中央には広場と、そこから続く公園と馬車の発着場がある。 夏期休暇が始まって二日目のこの日、朝早いにも関わらず発着場は帰省する子供達で賑わっていた。 どうにかお互いを見つけることが出来た四人はおはよう、と幾分ぎこちない挨拶を交わすとハルバラード方面へ行く馬車の列に急いで並んだ。 レイアルまではハルバラードの王都の更に先にある川沿いの小都市から船に乗らなければならない。 そこまではおよそ馬車で半日と少しというところだ。 そこからレイアルまでは川を下って一日半程、帰りは風がよければ二日くらいの行程だ。 アーシャは列に並びながら、ふと大事な事に気がついて三人に問いかけた。 「あの、三人とも船の乗船券とか宿とか、どうなったの?」 一昨日は勢いで一緒に行く事を承諾したものの、本来なら帰省とも被るこの時期はある程度の準備がなければ船にも乗れないはずなのだ。 アーシャは随分前に、街の中に臨時で作られる帰省する子供達のための代理店で船の乗船券を買ってあった。 三人はその問いに顔を見合わせて笑うと心配するアーシャに一枚の紙を見せた。 「船の乗船券の予約票……?」 「そう。一昨日あの後タウロー教授のところに行ったらこれを渡されたのよ。三人分とってあるから船着場でこれを見せれば切符が買えるって」 「民宿も四名で予約済みだってよ」 「え、ええ?」 「教授は最初から我々が付いて行くと言い出す事が分かっていたのだろう」 タウロー教授は穏やかな顔と物腰をしているが、実は食えない男というのが裏での評判だと言う事をディーンは知っていた。 生徒達には余り知られていないが、その洞察力や行動力は同僚の教授陣や研究生達からは密かに恐れられているらしい。 そんなタウロー教授が生徒の性格や動向を把握している事は不思議でもなんでもない。 多くの生徒を抱える中で一生徒とその仲間の事情が分かっていることには感心するが、先日の実習の件で目に留まったのかもしれない。 だがそれにしては手回しが良すぎるような気も多少はする。 けれど、タウロー教授を結構気に入っているらしいアーシャにわざわざそんな疑問を投げる事もなかろうとディーンは沈黙を守った。 誰かを気に入る事自体がアーシャにとっては珍しいらしいのだから、そんな数少ない憧れに水を差す事もない。 「な、なんで?」 「さあ?」 自分を置いて進んでいるらしい物事にアーシャが首を傾げている間に乗り場には馬車が次々と入ってきた。 四人は同じ方向へ行く馬車が何台も連なってくる中の一台にどうにか全員乗り込み、固い座席に座り込んだ。 やっと訪れた夏期休暇が楽しくて仕方がない、という雰囲気の子供達に囲まれているとなんとなくその空気が伝わってきて彼らも落ち着かない。 やがて沢山の子供達を乗せた馬車は列を成してゆっくりと動き始めた。 その日の午後、アーシャは川に張り出した広い桟橋の片隅にジェイと二人で座っていた。 ここは川を行き来する船が出るリドという名の街だ。 船が出る夕方まではまだしばらく時間があり、ディーンは予約票を乗船券に引き換える為、一人で発券所へ出かけていた。 西に傾き始めた太陽が川面をキラキラと照らして少し眩しい。 暑いけれど風があるので耐え切れないほどではなかった。 二人は日に焼けるかな、などと言いながらさっきから川面を眺めていた。 レアス川の川幅は随分と広く、対岸もかなり遠い。 セドラ山脈から流れ出た豊かな水の上を大小様々な船が盛んに行き来していてずっと見ていても飽きることがない。 川というよりは小さな湖のようにすら見えた。 これだけの川幅だからこそ大きな船も行き来できるのだろう。 川の対岸にも街があり、そちらの方には小型の船が沢山停泊しているのが見える。 あちらも同じリドの街だが、こちら側と違って漁業が盛んなのだと桟橋にいた船の乗員から教えてもらった。 三人は途中で通り過ぎた王都ハルバラードでシャルと一旦別れて先にここへ来ていた。 シャルはちょっと実家に寄って成績表を叩きつけてくると言って出かけていったのだ。 三人は少し心配したのだが当の本人は、 「大丈夫よ。いざとなったら今度はあの悪趣味な屋敷を全焼させてくるから心配しないでいいわよ!」 と朗らかに笑ってジェイに別の心配をさせながら行ってしまった。 今も何となく無口なジェイはきっとシャルの暴挙他を心配したままなのだろう。 アーシャは静かな川面を見ながら小さく欠伸をした。 「船、来ないなぁ」 せっかく早くついたのだから川を遡ってくる船の姿を見たかったのだが、目当てのそれはまだやってこない。 明るい内にじっくり見たかったのだがこのまま行くとすぐに夕方になってしまいそうだった。 「魔風船、て言ったっけ? 川を遡るんだよな」 「うん、そう。でも私もまだ見た事ないんだ。本では読んだけど」 魔法技術を使った大型建造物を作るのはかなりの技術と沢山の人手と高価な材料が必要だ。だからこそそれらは注目度が高く、教科書などにも載っている。 数年前に開発された魔風船と言う名のその船も魔法技術に関する本に度々登場していた。 だが紹介されていた本には勿論その技術の全てが載っている訳ではなく、だからこそアーシャは実物に興味があった。 「名前からすると、魔法で風を起こすようなもんなのか?」 「んっと、無風の時には風を自力で起こすこともできるって書いてあったと思うけど……どっちかって言うと船の周りの風を常に操るような原理みたいだったよ」 「操る?」 「うん、川を下る時は普通に流れに乗るんだけど、遡る時は帆を張って、方向の違う風が船の周りに吹くのを捕まえて、常に帆に向かって吹くように方向を変えるの。そうするとあんまり余分な力を使わなくていいから効率が良いんだって。 確か船体にも水の抵抗を少なくする魔法技術が使われてるし、光球が開発されてから夜も運行できるようになったって本には書いてあったよ。それで大分運行速度が速くなったんだって」 「へぇ、何か良くわかんねぇけどすごそうだな!」 ジェイの正直な答えにアーシャはくすくすと笑った。 「あっ、ジェイ! 消えるよ、ほら!」 「おっ、やべ!」 ジェイはさっきから右手の人差し指を一本立ててその先に小さな光を灯していた。 彼が喋るたびにちかちかと明滅したその光はいまや消えていきそうに小さくなっている。 「ん!」 ジェイがもう一度気合を入れて指先を見つめると、その視線の先でまた光が明るくなり始めた。 「おー、セーフ」 「うん、大分上手くなったね」 これはアーシャがジェイに教えている魔法の訓練の一環だった。 彼女はジェイに、ごく弱くて良いから精霊を聖水なしで呼び出し、指先に光を灯し続けるようにお願いする、という訓練を試験の前からずっと課している。 そしてそれをしている最中のジェイにこうして時々話しかけ、彼の気をわざと散らすのだ。 最初はすぐに光を消してしまっていたジェイも、今では消さないまま大分ちゃんとした話ができるようになってきていた。 精霊は呼び出しても人の目には見えない。 呼び出した瞬間は一瞬の現象が起こるが、それくらいだ。 だがこうして小さな光を灯すようにと心の中で考え続ければ、それが灯っている間は精霊が傍に居る事が分かる。 アーシャに言わせると精霊は呼び出すというよりも、近くを通った彼らに声をかけて呼び止めるというのが正しいらしい。 遠くにいる精霊や力のある精霊は、呼び止めようとしてもなかなか来てはくれない。 そこら辺が本人の力量に左右されるところらしい。 要するに呼びかける声が大きいかどうかと考えると分かりやすく、その声の大きさが生まれ持った素質なのだとアーシャは説明した。 加えて精霊達は一つの場所に留まっているものは多くないから、呼び止めた本人が他の事に気を取られればもう用は済んだと見て、すぐにその場を去ってしまう。 だから精霊を扱う時は、常に意識の一部を彼らに向けていなければ長く拘束しておけないのだ。 ジェイが行っているのはいわばそのための基本の訓練だった。 弱くても良いのでとにかく精霊を呼び出し、指先に小さな光を灯してそれを集中力が切れるまで続ける。 たったそれだけの事に見えるが、常に精霊の存在を意識する事で少しずつ彼らに馴染み、いずれは呼吸をするように精霊を傍に置く事ができるようになるだろうとアーシャは説明していた。 どのみち光の精霊にとても好かれる性質のジェイの傍にはいつも大なり小なりの光の精霊が行き来している。 今までは本人の意識が滅多に彼らの方を向かないので仲良くしたくてもできなかっただけだ。 ジェイの方から働きかけるようになれば彼らは先を争ってジェイに力を貸すだろうとアーシャは見ていた。 「そういえば、ジェイは宣誓とかする気はないの?」 「それって、教会でやる奴だっけ?」 光から目を離さないジェイにアーシャはうん、と頷いた。 「光の精霊や魔法しか使う気がないなら、宣誓するともっと簡単に強い魔法が使えるようになるっていうよ? ジェイは精霊に好かれてるから、多分かなり強い神聖魔法まで使えると思うけどな」 「俺は別に、神官とか魔道士になりたい訳じゃねぇからなぁ。大体、宣誓とか神聖魔法とか、そういうの良くわかってねぇし。一体どういうものなんだ?」 アーシャはそれらの定義を思い浮かべて、ジェイに分かりやすい言葉を選んで説明した。 「んと、要するに宣誓ってのは、私はこの属性の精霊と神に一生を捧げます。他の属性の魔法は決して使いませんって宣言して誓うの。そんで、その代わりにこの属性の更なる加護を下さいって願うわけ」 「そうするとどうなるんだ? 他の魔法は使えなくなるのか?」 「うん。魔具を使った場合を除いて、他の属性の魔法は唱えても一切発動しなくなる。その代わり、誓った属性の魔法の威力はすごく上がるんだよ」 正確なところを測定するのは難しいが、例えば五級の魔法しか使えなかった人間が一気に二、三級上の魔法が使えるようになるくらいだと言われている。 最初から上位の魔法が使えるものはそういう変化は少ないが、その属性の高位の精霊が呼び出しやすくなったり、詠唱魔法の呪文が簡略化できたり、魔力の消費が減ったりといった様々な現象が起こるらしい。 そして、神聖魔法も使えるようになる。 「神聖魔法って言うのは神の名が入った聖句を呪文として使う魔法なんだ。宣誓すると神殿や大きな教会で習う事ができるんだって。 呪文がすごく長いし、宣誓しても使えない人もいっぱいいるみたいだけど、もし使えればものすごく強いらしいよ。聖なるものだから簡単に使うのは戒められているけど、一つ使えるだけでも出世間違いなしなんだってさ」 「へぇー、なんかすごそうだけど……ちょっとおっかないな」 「確かにね。でも光属性のなら、確か癒しの魔法が多いって聞いたよ」 「うーん、けどなぁ……俺、ほんとは教会あんま好きじゃないんだよな。まぁ、そのうち気が向いたら考えてみるよ。最初から楽してもなんだしさ」 「ん、わかった。じゃあやっぱり当分その訓練ね。ほら、光消えそうだよ」 「おっとと」 慌てて光を強めるジェイを見てアーシャはくすくすと笑いながら、彼の集中力を試すような次の話題を頭の中で探した。 「そういえば、ジェイは成績表どうしたの? 実家にもう届けた?」 「ん? ああ、俺のは郵送したぜ。自分で届けになんか行ったら、親兄弟総出で待ち構えられて見合い会場にでも放り込まれるに決まってるしな。全部SとかAとは行かないけど、俺にしちゃ上出来の結果だったよ」 シャルとディーンのスパルタに耐えたかいがあった、とジェイはしみじみと思う。 試験前のあの日々を思い起こすと涙すら浮かびそうになる。 それだけ辛い時間だったのだ。 短い人生だがあれだけ勉強したのは今までで初めてだった。 「そういえば、そういうアーシャはどんくらいの成績なんだ? 野外実習はSだろうけど、他は?」 「んと、Bだよ」 「どの学科が?」 「全部。いつもは全部Bが揃っててちょっと可愛いんだけど、今回はSが一個着いちゃった」 「……」 アーシャの成績について具体的なところは聞いた事がなかったが、揃ってない事がちょっぴり残念そうですらあるその答えにジェイは思わず沈黙した。 「……わざと?」 うん、とアーシャは一つ頷く。 「かなり難しいんだよ、全部同じのとるのって。普段の授業態度とかも含まれるし、先生の好みとか癖とかもあるからさ、そういうの皆ひっくるめて程々って、逆に綱渡りみたいで楽しいの」 そんなところに楽しみを見出すか? とジェイは激しく疑問に思う。 「どうせなら全部Aとか取る方で綱渡りしないのか?」 そのもっともすぎる質問にアーシャは首を横に振って答えた。 「それじゃだめ。一年の時普通にしてたら、次の学年に上がる時の科目変更で何人かの担当教授に渋られて大変だったから。私、自分が受ける授業くらい好きに選びたいもん。平凡な成績なら誰も引き止めないからいいの」 「ああ、なるほどなぁ。確かにそういう話は結構聞くよな」 昔から教授達は自分の担当する学科や教科に優秀な生徒がいると、次の学年でもそれを選ぶことを強く勧める傾向にある。 授業のレベルが上がり優秀な生徒や良い研究の結果が出ると、その学科に出される予算が増えるからだ。 だがアーシャのような好きな事をやりたいタイプの学生にはそれは迷惑なことなのだろう。 アーシャは軽く肩を上げてため息を吐いた。 「美味しいケーキでも、同じのを無理矢理二つ続けてはいらないよ。それがうんと好きだったりしたら別だけどね」 おかしな例えにジェイはけらけら笑った。 そのどこまでも自由な精神が彼には少し眩しかった。 しばらくするとディーンがようやく戻ってきた。 随分と時間がかかったが、どうやら何か買い物もしてきたらしく色々と入っているらしい重そうな布袋を片手に提げていた。 「おかえり、遅かったね」 「ああ、発券所で聞いたら船の中では食事が出ないらしい。食料を持っていない客向けの販売はあるが、高いと聞いたので買って来た」 「おお、さすが。助かるな」 「ついでに船室も、アルシェレイアの券は大部屋だったが四人一緒の個室に変更にしてきた」 教授が予約していたのは四人部屋を一つ借りるという乗船券だったから、アーシャをそちらに変更するのは大した手間でもなかった。 本当にどこまでも教授の手回しが良い事に頭が下がる。 「別に大部屋でも良かったのに」 アーシャはなんだか過保護な気がする手配に軽く頬を膨らませた。 川を行く船は中型船だから船内は広くないので大部屋が基本で、大抵は床に毛布を敷いての雑魚寝になる。 寝心地は良くないらしいが男性と女性に分かれているので荷物さえ気をつけていれば特に危険な事もないはずなのだ。 「四人部屋はハンモック式の簡易寝台があるそうだ」 「じゃあそっちにする」 ハンモックが大好きなアーシャは即答した。 どうやらタウロー教授は本当に彼らのことが良くわかっているらしい。 この分ではアーシャが魔法学部の裏庭に作っている寝床の事も当然良く知っているのだろう。 ディーンは苦笑しつつも教授の得体の知れなさを実感していた。 ハンモックについてジェイとアーシャが語っていると、カーンカーンと甲高い鐘の音が辺りに響いた。 その音にハッと川の方を見ると、下流からゆっくりと一隻の船が川を遡りやってくるのが目に入った。 赤く染まり始めた太陽の光を映した帆が美しい。 アーシャは大きく目を見張ってそれを見つめた。 「……綺麗」 川からの風は船の横から吹いているのに、帆は風を孕んで大きく膨らんでいる。 広い川を行く為なのだろう、横幅が広く喫水が浅めのどっしりとした船だった。 中型船と聞いていたが想像していたよりも随分と大きい。 アーシャは船体のあちこちに目を走らせた。 船の舳先や船体、帆の布までにも様々な魔法技術が使われているのが見て取れる。 こんな大きな物をどうやったら作れるのかアーシャには想像がつかなかった。 自然と口からため息が零れる。 「すごいなぁ」 人の手がこれを作り出したなんてアーシャには簡単には信じられそうもない。 船がゆっくりと入港しその動きを止めるまで、少女はひたすらその姿を見つめていた。 シャルが合流したのは彼らが乗る船が入港してまもなくの事だった。 戻ってきた彼女は足取りも軽く極めて上機嫌で、ジェイはまさか本当に家を燃やしてきたんじゃないだろうかとひやひやしながらシャルを呼び止めた。 「あら、待っててくれたのね。先に乗ってても良かったのに、ありがとう!」 シャルの口調は今にも鼻歌でも歌いだしそうな明るいものだった。 シャルに慣れているジェイは逆にその口調が恐ろしい。 「ね、シャルどうだったの? 認めてもらえた?」 恐れを知らない少女はさらりとシャルに疑問を投げかけた。 シャルはその問いににっこりと笑顔を見せた。 「もう、最高だったわよ! あの父親の顔、アーシャにも見せてあげたかったわ! 実家に成績表持って乗り込んだんだけどね、誰も私の素晴らしい成績表見てくれないのよ?」 「なんで? 聞く耳持たなかったの?」 シャルは上機嫌に笑いながら首を振った。 「昔、離れを全焼させた頃と同じ色に戻った私の姿を見て、全員怯えちゃったのよ。もう可笑しいったらなかったわ!」 シャルはそう言ってケラケラと笑いながら自分の髪をするりと撫でる。 しなやかに背中まで伸びた髪は瞳と揃いの鮮やかな赤だ。 美しく手入れされた赤い髪は最近のシャルの自慢だった。 だが茶色になった髪を見てほっとしていたという父親はさぞびっくりした事だろう。 「自分の才能を磨いて、炎を極める為にがんばりましたの、だんだん使える炎も高温になってきましたわって言ってちょっと青っぽい火を見せてやったら、『そ、それは感心な事だ、その調子で学業に励みなさい』ですってよ。もう声が震えてて、私の方が笑いを堪えるのに必死だったわよ!」 「それですぐ帰れたのかぁ」 「よ、良かったな、シャル……」 「……賢明だったな」 誰が、とは言わずにディーンは静かに感想を締めくくった。 ゴォン、と重い鐘の音が不意に辺りに響いた。 出航の時刻が近い事を知らせる音だ。 気がつけば周囲に居た人々はほとんど船の中に入っている。 四人は顔を見合わせると慌てて船に乗るべく荷物を持って立ち上がった。 夕闇に浮かんだ船は黒々としたシルエットでそれだけでは美しいとは言い難いが、見上げる彼らの心は妙に浮き立ちざわめいている。 「……なんか、船っていいわね。すごく旅って言う感じがするわ」 「うん、いいね……」 ゴォン、ともう一度鳴った鐘に追われるように、四人は船に向かって走り始めた。 船に近づくごとにその胸が少しずつ高鳴る。 どんなに短い旅でも、旅立ちはいつでも少しの不安と大きな期待で彩られているように思えた。 四人の夏の休暇はこうしてゆっくりと幕を開けたのだった。 |
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